聴覚を生かす
子どもたちが残された聴力を最大限に生かし、音の世界で育つために
教育プログラムの全ての場面において
「時」、「場」、「ひと」へのこだわりを大切にしています。
時
一日も早く、音を聴く
聴覚に障がいを持った子どもたちにとって、できるだけ早期に適切に調整された補聴器を装用して、教育を開始することはもっとも重要なことです。
聴覚に障がいがある子どもといっても、音が「聞こえない」のではなく、「聞こえにくい」子どもという方が適切です。医学的にみても完全に聴力が失われることは、極めてまれなケースです。
ふつうに耳が聴こえる子どもたちは、生まれた直後から周囲の者と心を通わせながら育ち、自然にことばを身につけていきます。聴覚に障がいがあっても、ことばを覚える能力自体が損なわれているわけではありません。たしかに聴覚障がいをもつ子どもたちが、聴覚を生かしてことばや人格を育んでいくことは、決してたやすいことではなく、時間がかかります。けれども、聴覚に関する医学・電子工学に基づいた最新の補聴器や人工内耳を最大限に活用することによって、子どもたちの聴覚の発達の可能性は大きく開かれているのです。
毎朝の補聴器チェック
補聴器や人工内耳は、きちんと働いていなければ着けていても意味がありません。しかし、使っていれば汗をかいて故障もしますし電池が切れることもあります。そこで本校では毎朝必ず、すべての子どもたちの補聴器・人工内耳の点検を行います。
電池の残量、本体・イヤモールドの点検、オーディオロジー部スタッフによる補聴器の音を聴いての点検、人工内耳の動作確認、赤外線受信機の点検が行われます。補聴機器に故障が見つかった場合には、すぐに代替機が貸し出されます。顕耳鏡による耳内のチェックも行われます。
場
聴こえに配慮した教室環境
校内の個別指導室や教室、グラウンドなど、すべての場所で最適な聴こえが子どもの耳に届くよう、最大限の配慮をして「聴く」ための環境を整えています。
幼稚部以上の全ての教室、特別教室、食堂などに赤外線補聴システムを備え、クリアな音とことばがいつでも子どもの耳に届きます。
残響を押さえるために、床にカーペットを敷き、壁や天井に吸音性に優れた建材を用いています。
グラウンドには全面に磁気ループ補聴システムを埋設し、運動会などでもマイクや音楽の音がよく聴こえるようになっています。
赤外線補聴システム
補聴器や人工内耳は、教室、ホール等では、騒音、反響があることに加え、教師との距離が離れているため、聞き取りが困難な状況になります。これを大幅に軽減し、聞き取りやすくするため、本校ではソニーの協力のもと、独自に「赤外線補聴システム」を開発しました。
教師の声は、赤外線という一種の光に変換されて教室内に照射されます。
子どもたちは、胸につけた「赤外線受信機」で受信し、教師の声を補聴器・人工内耳で、あたかもすぐそば、30〜40cmの距離で話しているように明瞭に聴くことができます。
机や天井に設置されたマイクは、生徒同士の会話をスムーズにするための 鋭指向性マイクロホンで、小学部以上の教室で使用されています。これにより、子ども同士が聴き合い、伝えあい、学び合うことがより豊かに行えるようになっています。
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赤外線システムを完備した教室
教師のマイク
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赤外線送信機
赤外線受信機
人工内耳
本校には、人工内耳をつけた子どもが多く在籍しています。
人工内耳を装用した子どもは、ただ単に人工内耳埋め込み手術をするだけでは不十分で、補聴器を装用した子どもたち同様に、聴覚を最大限に生かす教育が必要なことが明らかになっています。ですから、聴くことを最大限に生かそうとする「聴覚主導の人間教育」は人工内耳を装用した子どもたちにとって、最も良い成長のための環境となっていると言うことができるでしょう。
人工内耳装用児の聴覚管理・教育は、医療機関との緊密な連携のもとで進められています。また一部の提携病院との確認の中で、校内での人工内耳のマッピングも行っております。
ひと
心をやり取りする対話
子どもが育つのに、周囲の人との豊かで温かな関わりが必要なことは言うまでもありません。これは聴覚に障がいがあったとしても同じことです。また同じように言えることは、「ことば」は教えられて身に付くものではない、ということです。子ども自身が「ひと」「もの」「こと」と出会い、心を動かしたその時に、周囲の人との関わりの中で出会った「ことば」こそが、その子自身の中に生きたことばとして育っていくのです。
ですから本校では訓練や指導のようなことは行いません。心をやり取りする豊かな会話によって、子どもたちの心とことばを育てることをしています。
このことをすべての教職員が大切にし、日々子どもたちと関わっています。
経験豊かなオーディオロジースタッフ
子どもたちの聴こえについて、また補聴器や人工内耳の管理、校内環境の整備を担っているのが、オーディオロジー部です。経験豊かなスタッフが子どもたちの聴こえについて全面的にサポートを行っています。
医療との連携
東京都内や神奈川県内にある多くの難聴外来のある病院、小児難聴を扱う病院と連携をとっております。
日常的な連携の他、合同カンファレンスによる共同研修を行ったり、本校の研修会に講師としてお招きしたりして、最新の医療に関する情報を随時入手するよう努めています。
提携している主な医療機関(五十音順)
北里大学病院、国際医療福祉大学三田病院、国立成育医療研究センター、国立病院機構東京医療センター、聖マリアンナ医科大学病院、東海大学医学部附属病院、東京医科大学病院、東京大学医学部附属病院、東京都立小児総合医療センター、横浜市立大学附属病院